「うちの子、留守番中に寂しがってるかも」
そう思って、犬専用のヒーリング音楽のサブスクを登録してみた時期があります。
ある総説を読んで、その「犬専用」が必須じゃなかったと知った日の話を書きます。
留守番中のわんにょむが心配で、犬専用音楽を流していた
わんにょむは留守番がそんなに得意な子じゃありません。
家を出るとき、玄関でじっとこちらを見ている目を見ると、心が痛みました。 帰宅すると、いつも玄関でくるくる回って迎えてくれる。 「待っていてくれたんだ」と嬉しい反面、(その間、ずっと寂しかったかな)と思っていました。
そんな時期、SNSで「犬専用のヒーリング音楽」というものを見つけました。 犬の聴覚に合わせて作られた、ゆったりした音楽。 「うちの子、これ流したら落ち着いて寝てた!」というレビューを見て、私も試してみることにしました。
月額500円くらいのアプリを登録して、留守番中はそれを流して家を出るようになりました。
帰ってきたとき、わんにょむはこれまでと同じように玄関で迎えてくれます。 家の中は静かで、わんにょむが寝ていた形跡もある。 「効いてる、たぶん」と、自分を納得させていました。
でも、本当のところ、音楽が「効いている」かどうかなんて、わかりませんでした。
留守番中の様子は見えない。 わんにょむは「クラシック流してくれてありがとう」とは言えない。 私は、月500円を払って「効いていると思いたい」を買っていただけかもしれません。
「犬専用じゃないと意味がない」と、何となく信じていた
ペットショップやネット記事を見ると、「犬の聴覚に合わせて作られた音楽」というのが、よく出てきます。
「犬は人間より高い周波数が聞こえるから、人間用の音楽は刺激が強すぎる」 「犬専用にチューニングされた音楽じゃないと意味がない」
そういう説明を読むたびに、「やっぱり犬専用じゃないとダメなんだな」と思い込んでいました。
でも、本当にそうなのかな、と、何となく引っかかってもいました。
うちのわんにょむは、私がクラシック音楽を流しているとき、ふっとリラックスして寝ている時がある。 特別な「犬専用」じゃない、私が普段聞いているクラシックを流したときに。
それが本当に音楽の効果なのか、それともたまたまの偶然なのか、わからない。 でも、なんとなく、「音楽の効果は、犬専用かどうかじゃないのかも」と感じていたんです。
ある夜、検索バーに「犬 音楽 効果 クラシック 研究」と打ち込んでみました。
「クラシックなら、犬専用じゃなくても十分」と書かれた総説
たどり着いたのは、2020年に出た、犬と音楽に関する系統的レビューでした。
研究者たちは、犬への音楽の影響を調べた14本の論文を分析していて、こうまとめていました。
クラシック音楽は、ストレスの多い環境(保護施設、犬舎、動物病院など)にいる犬を落ち着かせる効果がある。 ヘビーメタルなどの激しい音楽は、逆に犬のストレスを増やす可能性がある。 犬専用に作られた音楽("Through a dog's ear"など)と、普通のクラシック音楽を比較した研究では、追加の効果は確認されなかった。
え、と思わず読み直しました。
「犬専用」が必須じゃないどころか、普通のクラシック音楽でも十分な効果があった、ということ。
しかも、複数の研究で示されていたのは:
- クラシックを流したシェルターの犬は、心拍数が下がり、吠える時間が減った
- 普段聞き慣れていない静かな音楽でも、ストレスのサインが減った
- ただし、長期間同じ音楽を流すと、慣れて効果が薄れることもある
つまり、月額500円のサブスクを払わなくても、私のスマホに無料で入っているクラシック音楽でも、たぶん同じくらい効くということだった。
「犬専用」というラベルを、ちょっと盲信しすぎていたかもしれない。
しかも、研究者の方たちはこうも書いていました。
音楽療法は、安価で、簡単に導入できる、犬の福祉を改善する有望なツールである。 ただし、個体差を考慮する必要があり、慣れを避けるためにバリエーションを持たせるのが望ましい。
「安価で簡単」という言葉が、ちょっと笑えました。 私はわざわざ高い(?)犬専用サブスクを払って、わんにょむのストレスを軽減した気になっていた。 たぶん、必要だったのは、私のスマホでYouTubeのクラシックチャンネルを開くこと、それだけだった。
留守番音楽を、シンプルに変えてみた
その日から、わんにょむの留守番中の音楽を、シンプルに切り替えました。
YouTubeで「クラシック リラックス」と検索すると、無料で何時間でも流れるチャンネルがたくさんある。 モーツァルト、バッハ、ショパン。 気分で日替わりにする。「慣れ」を避けるために、複数のチャンネルをローテーションする。
これでサブスクを解約しても、わんにょむの留守番中の様子は変わりませんでした。 むしろ、いつもより落ち着いて寝ている形跡がある気がする。
たぶん、「音楽そのもの」が効いていて、「犬専用」という付加価値は、私の安心感のための価格だったんだろうな、と思います。
「自分が好きな音楽」を、わんにょむと一緒に聞く時間
最近は、留守番中だけじゃなくて、家にいる夜にも、ゆったりした音楽を流すようになりました。
仕事から帰って、ソファに座って、低めの音量でクラシックをかける。 わんにょむが膝に乗ってきて、ふぅっと息を吐く。 私も呼吸が落ち着く。
「犬専用音楽」を疑い始めるまで、私はあくまで「わんにょむのため」と思って音楽を流していました。
でも、実は、私自身もリラックスしていたんです。 そして、私がリラックスしていることが、たぶんわんにょむにも伝わっている。
研究を読んでからは、「音楽は2匹のためにある」と思うようになりました。 クラシックを聞いている時間、私の呼吸も、わんにょむの呼吸も、たぶん同じくらい深くなっている。
「いいラベル」より、「中身がいいもの」を選びたい
カフェに来てくれる飼い主さんで、「うちの子、留守番中にずっと吠えるんですよ」と困っている方には、最近こうお伝えしています。
「クラシック音楽、留守番中に流してみるといいかもしれませんよ。犬専用じゃなくても、普通のクラシックで十分効くって研究があるみたいで」
驚かれることが多いです。 「えっそうなんですか、犬専用じゃなくていいんですね」と。
私もずっと「犬専用」を信じていたから、その表情がよくわかります。
「ラベル」と「中身」って、けっこう違うことがある。 そういうのを、こうやって一つずつ知っていけるのは、ちょっと楽しい。
明日も、家を出るときに、スマホでクラシックチャンネルを開いてから出ようと思います。 特別な道具はいらない。 私とわんにょむのあいだに流れる、その音楽そのものが、たぶんいちばん意味のあるものだから。