「しつけは毎日コツコツやらないと」

そう思って、わんにょむに毎晩、新しいトリックの練習を続けていました。

ある研究を読んで、その「毎日コツコツ」が、むしろ覚えを遅らせていたかもしれないと知った日の話を書きます。


毎晩15分、新しいコマンドの練習をしていた

わんにょむに「ハイタッチ」を教えたかった時期がありました。

しつけ本には「毎日少しずつ、コツコツ続けるのが大事」と書いてある。 SNSのドッグトレーナーも、「毎日5分でいいから続けて」と言っていた。

だから私は、毎晩寝る前の15分を「練習タイム」として確保しました。 わんにょむを呼んで、おやつを持って、「ハイタッチ」のコマンドを練習する。 1日に3回くらい繰り返して、できたら褒める。

ところが、2週間続けても、わんにょむは安定して「ハイタッチ」をしてくれませんでした。

「今日はできた!」と思った翌日、ぜんぜんできなかったり。 昨日まで覚えていたはずなのに、忘れてる感じだったり。

(うちの子、覚えが悪いのかな)

そう思いかけて、ちょっとがっかりしていました。

毎日続けてもダメなんだから、もっと頻度を上げるべきなのか? それとも、根本的にやり方が間違っているのか?

その疑問を、ずっと持て余していました。


「もっとやれば覚える」が、ぜんぶ正しいわけじゃない気がした

しつけって、努力と時間に比例して結果が出るもの、というイメージがありました。 毎日やれば、いつか必ず覚える。 1日3回やるなら、5回やればもっと早い。

そういう「努力=結果」の感覚で、わんにょむの練習に向かっていたんです。

でも、実際にやってみると、必ずしも比例していない感じがある。 毎日やればやるほど、わんにょむが疲れた顔をする日が増える。 3回目の練習ではもう集中していない。

(もしかして、私のやり方、犬の脳に合ってないのかも)

そう思って、ある夜、検索バーに「犬 練習 頻度 効率 研究」と打ち込みました。


「週1〜2回 × 1セッション」が、いちばん早く覚えた研究

たどり着いたのは、2011年に出た、なかなか驚きの研究でした。

研究者たちは、44頭のビーグルを4つのグループに分けて、新しいしつけ課題を練習させたそうです。

  • グループ1:週1〜2回 × 1セッション
  • グループ2:週1〜2回 × 3セッション連続
  • グループ3:毎日 × 1セッション
  • グループ4:毎日 × 3セッション連続

すべての犬が、合計18回のセッションを受けた。 つまり、総練習量は同じ。違うのは「いつ、どれだけ続けて」やるかだけ。

結果は、私の予想を完全に裏切っていました。

いちばん早く覚えたのは、週1〜2回 × 1セッションのグループ。 いちばん遅かったのは、毎日 × 3セッション連続のグループ。

つまり、「たくさん詰め込んだ犬ほど、覚えが遅かった」。

しかも、面白いことに、「毎日 × 1セッション」と「週1〜2回 × 3セッション連続」は、ほぼ同じ結果だったそうです。 1日にたくさんやるのと、毎日少しずつやるのは、効果が似ている。

研究者たちは、「練習と練習のあいだに、時間を空けることが大事」と結論していました。

人間の心理学でも知られている「スペーシング効果」というやつ。 学んだことを脳が定着させるには、繰り返しの間に休息が必要、というもの。 犬の脳にも、同じことが当てはまるみたいです。

ページを閉じて、わんにょむを見ました。

私が毎晩15分、毎日続けていた練習は、ぜんぶ「効率の悪いやり方」だった可能性が高い。

うちの子の覚えが悪い」じゃなくて、「私の練習スケジュールが悪かった」。


練習のスケジュールを、週2回×1セッションに変えた

その日から、わんにょむのしつけのスケジュールを変えました。

「毎日15分」をやめて、「週に2〜3回、1セッション5分」に。 水曜と土曜の夜だけ、ハイタッチの練習。 それ以外の日は、しつけ的なことは何もしない。

「やらない日」の方が多い感じになって、最初はちょっと不安でした。 でも、研究を信じて続けてみたら——

3週間目くらいで、わんにょむが安定して「ハイタッチ」をするようになりました。

2週間「毎日」やっても安定しなかったのが、3週間「週2回」でちゃんと入った。 しかも、わんにょむの方も、練習中の集中度が明らかに違う。 週2回のときは、「お、これはあのおやつタイムだ!」とテンション高く来てくれる。

私が「努力=結果」だと思っていたのは、たぶん人間の感覚での話でした。 犬の脳に対しては、「休息=定着」の方が、本当だったみたいです。


「やらない日」を恐れなくなった

しつけって、サボったらダメ、と私はずっと思っていました。 1日休んだら、覚えたことを忘れる気がして。

でも、研究を読んでからは、その「休む日」が必要な時間だったとわかった。 わんにょむの脳の中で、たぶん私が見えないところで、学んだことが整理されている。

そう思うと、しつけの「やらない日」を、罪悪感なく過ごせるようになりました。 週2回の練習日以外は、わんにょむと普通に遊ぶ。散歩する。寝る。 それだけで、たぶんしつけは進んでいる。

カフェに来てくれる飼い主さんで、「毎日しつけしてるんですけど、なかなか覚えてくれなくて」と話す方には、最近こうお伝えしています。

「毎日より、週2〜3回くらいの方が、犬は覚えやすいって研究があるみたいで」

驚かれることが多いです。 「えっそうなんですか、毎日やった方がいいかと思ってました」と。

私もずっとそう思っていたから、その表情がよくわかります。


「もっとやる」より、「ちゃんと休む」を信じてみる

明日はしつけの練習日じゃありません。 わんにょむは、明日も「ハイタッチ」を覚えるかもしれないし、忘れるかもしれない。

でも、それは私が「サボった」せいじゃなくて、わんにょむの脳が静かに作業している時間。 そう信じて、明日はおもちゃで遊ぶことにします。

しつけって、たぶん「練習している時間」だけじゃなく、「練習していない時間」まで含めて、できているもの。

それを知ってから、わんにょむの寝顔が、これまでより少し違って見えるようになりました。 寝ているその瞬間、たぶん今日のハイタッチが、この子の中でちゃんと整理されている。

明日も、わんにょむがゆっくり休めるように、無理に練習を入れないでいようと思います。 「やる」より「やらない」を信じる、そういうしつけが、たぶんいちばん効くから。