「最近、わんにょむの落ち着きがなくなったな」

仕事が忙しい時期に限って、そう思うことが何度かありました。

ある研究を読んで、それが「気のせい」ではなく、文字通り体に刻まれていると知った日のことを書きます。


私が疲れていた1ヶ月、わんにょむも様子が違っていた

去年の秋、カフェの繁忙期がありました。

新作メニューの導入、人手不足、SNS担当の兼任。 頭の中が常にざわざわしていて、家に帰ってからもため息が止まらない夜が続きました。

その時期、わんにょむもなんだか様子が変だったんです。

夜中に何度か起きて、家の中をうろうろする。 朝のごはんを少し残す。 散歩中に立ち止まる場所が増えて、しっぽが下がり気味。

「気のせいかな」とは思いました。 人間の感情が犬に伝わるとは聞くけど、こんなにはっきり影響するものなのか。

そのときは、(私が忙しくて、構ってあげる時間が減ったからかな)と片付けていました。 おやつを多めにあげたり、無理に膝に乗せて撫でたりして、わんにょむを「補償」しているつもりだった。

でも、何かもっと深いところで、わんにょむが私のざわざわを引き受けてくれている感じが、ずっとありました。

それでも、その「感じ」をどう確かめたらいいのか、わからなかったんです。


カフェの常連さんの話と、私の中の引っかかり

ある朝、シニアの愛犬を連れた常連さんが、ぽつりとこう言いました。

「主人が病気で長く入院していたとき、うちの子も体調崩したんですよ」

「偶然じゃないと思います」と続けて、ちょっと笑いました。

その方の言葉が、その日中ずっと頭の中にありました。

うちのわんにょむも、私が忙しい時期に体調を崩したのは、たぶん偶然じゃない。 人間のストレスは、犬にも届いている。 それは「気持ちが伝染する」というレベルの話なのか、それとももっと体のレベルで何かが起きているのか。

その夜、わんにょむが寝てから、検索バーに「飼い主 ストレス 犬 同期 研究」と打ち込みました。


58組の犬と飼い主の「毛」を測った研究

たどり着いた研究は、2019年に出たもので、調べ方が独特でした。

研究者たちは、58組の犬と飼い主のペアを集めて、それぞれの毛のサンプルを採取したそうです。

毛のなかには「コルチゾール」というストレスホルモンが少しずつ蓄積されています。 血液中のコルチゾールは数時間で変動するけど、毛の中のコルチゾールは「数ヶ月にわたる平均的なストレス状態」を反映する、と書いてありました。

つまり、毛を測ると「過去数ヶ月、その個体がどれくらいストレス下で過ごしていたか」がわかる。

研究では、犬と飼い主の両方の毛を、夏と冬の2回採取しました。 そして、両者のコルチゾール濃度に関係があるかどうかを調べた結果——

犬と飼い主の長期ストレスは、はっきりと同期していたそうです。

人間のストレスが高い時期は、その人の犬のストレスも高い。 人間のストレスが低い時期は、犬のストレスも低い。

しかも、もう一段深い発見がありました。 研究では、犬と飼い主の性格特性も測ったんです。 「犬の性格が、飼い主の毛のコルチゾールに影響している」という方向は、データから見られなかった。 一方、「飼い主の性格特性が、犬の毛のコルチゾールを強く予測していた」。

つまり、ストレスの方向は飼い主から犬へ、だった可能性が示唆されていたんです。

ページを閉じて、隣で寝ているわんにょむを見ました。

去年の秋、私がざわざわしていた1ヶ月。 あのときのわんにょむの毛の中にも、たぶん私の余韻が刻まれていたんだろうな、と思いました。

「気のせい」と片付けたかったけど、気のせいじゃなかった。 私のストレスは、わんにょむの体に、確かに記録されていた。

それを知って、ちょっと胸がぎゅっとしました。 (ごめんね)と心の中で言いながら、わんにょむの背中をゆっくり撫でました。


わんにょむのために、自分のストレスを整えるようになった

その夜から、私は「自分のストレスケア」を、わんにょむのためのケアとして意識するようになりました。

忙しい時期でも、寝る前の5分はスマホを置いて深呼吸する。 週に1回は、わんにょむと一緒に何もしない時間を作る。 イライラしているときには、わんにょむに無理に話しかけず、まず一旦自分を落ち着ける。

「私が落ち着く」が、たぶんわんにょむの体にも届いている。 そう思うと、自分のメンタルケアが、ぜんぜん「自分のため」だけのものじゃなくなりました。

これまで、ストレス管理は「自分の問題」だと思っていました。 忙しい、疲れた、イライラする——それは私の中で起きていることで、わんにょむには関係ないと。

でも、研究を読んでからは、それが文字通り2匹の問題になりました。

私が落ち着くと、わんにょむも落ち着く。 私が深呼吸すると、たぶんわんにょむの体内のホルモンも、少し安定する。

おもしろいことに、自分のストレスを整える努力をしてから、わんにょむの夜中のうろうろが減りました。 朝ごはんも、また完食するようになった。

直接の因果関係はわかりません。 でも、研究の話と合わせて考えると、たぶん偶然じゃない気がしています。


あの子が私を見ている、その先で

カフェに来てくれる飼い主さんで、最近忙しそうな方には、それとなくこの話をするようになりました。

「無理しすぎてると、うちの子の体にも残るそうですよ」と。

驚いた顔をする方が多いです。 「えっ、そんなことまで?」と。

私も最初はそう思った。 人間の感情が犬に伝わるくらいは聞いたことがあっても、それが毛の中にまで記録されているなんて、思いもしなかった。

でも、知ってしまってからは、戻れません。

わんにょむのためにも、今日の私を整えたい。 ちゃんと寝て、ちゃんと食べて、できる範囲で笑う。 それが、たぶん明日のわんにょむの毛の中に少しだけ反映される。

そう思うと、自分を大事にする理由が、もうひとつ増えた気がします。

明日も、忙しさのなかで、まず私が深呼吸しようと思います。 わんにょむは、たぶん私のその深呼吸を、すでに聞き取ってくれているから。