「ダメ!」と強く言って、リードをぐっと引く。

そんな「効くしつけ」を、ずっと正しいと思って続けていた時期がありました。

ある研究を読んで、その「効くしつけ」が、犬の気分にまで影響していたかもしれないと知った日のことを書きます。

わんにょむが「ダメ」で動くようになった頃、私はちょっと得意だった

子犬時代のわんにょむは、いろいろやってくれました。

ソファに登っちゃダメな日に登る。 散歩中にリードを引っ張る。 食事中に食卓の下から手を出してくる。

最初は優しく言っていました。 でも、何度言っても直らないので、しつけ本に書いてあった「毅然とした叱り方」を試してみたんです。

低い声で「ダメ」。 リードを少し強く引く。 だめだった時はテーブルを軽く叩く。

そうしたら、わんにょむは明らかに行動を変えました。 ソファに登るのをやめた。リードを引かなくなった。

私はちょっと得意でした。 「ちゃんとしつけが入っている」という感覚があった。 カフェの常連さんに「お利口ですね」と褒められると、なんだか嬉しかった。

でも、しばらくして、気になることが出てきました。

わんにょむが、なんとなく萎縮している気がしたんです。 私が大きな声を出すと、ピクッと体を縮める。 いつもより目を合わせなくなる。 帰宅したときの喜び方が、なんだか前より控えめ。

「気のせいかな」と思いました。 「しつけが入っただけだろう」と。

でも、心のどこかで(私のやり方、何か間違っているのかも)と引っかかっていたんです。

「叱るのが愛情」と「叱ると傷つく」の、どっちが本当なのか

しつけの世界には、いまも2つの流派があります。

「ダメな時にはダメと言うべき」「犬を甘やかしてはいけない」「リーダーシップを示すために強めに叱る」と言う人。 「叱るのは犬の心を傷つける」「ご褒美で行動を強化するほうがいい」「優しい言葉で十分」と言う人。

私自身は、両方の話を聞いていました。 「優しいだけだとなめられる」とも聞くし、「叱ると恐怖でしか覚えない」とも聞く。 どっちが本当なんだろう、と。

わんにょむがピクッと縮むあの瞬間を見たとき、私の「叱り型しつけ」が本当に正しいのか、自信が持てなくなりました。

でも、もう一方の「優しいだけ」のしつけが効くという確証も持てなかった。

それから、なんとなく中途半端な時期が続いていました。 強く叱る回数を減らしてみる。 でも、効かなくなったら結局また「ダメ」と言ってしまう。 そして、わんにょむがまた萎縮する。

ある夜、その繰り返しに疲れて、検索バーに「犬 叱る 気分 影響」と打ち込んでみました。

罰ベースのしつけが、犬の気分にまで影響していた研究

たどり着いたのは、2021年に出た、わかりやすい研究の話でした。

研究では、飼い主の自己申告で、しつけの方法を2つに分けました。

  • グループ1:報酬ベースのみ(褒める、おやつ、無視)
  • グループ2:罰ベースの方法を2つ以上使う(リードを強く引く、首根っこを掴む、テーブルを叩く、大きな声で叱る、など)

そして、犬たちに「認知バイアステスト」というものをやりました。

これは、犬の気分が「楽観的」か「悲観的」かを測るテストで、簡単に言うと、 「いいことが起きる場所」と「悪いことが起きる場所」のあいだの中間(曖昧)の場所に、どれくらい速く近づくかを測るもの。

楽観的な犬は「中間にもいいことがあるかも」と思って早く近づく。 悲観的な犬は「ここも悪いことが起きるかも」と思って遅く近づく。

結果は、はっきりしていました。

罰ベースを2つ以上使われている犬たちは、中間の場所に近づくのが明らかに遅かったそうです。 特に、ポジティブの近く(明らかに良いことがありそうな場所)にすら、報酬ベースの犬より遅く近づいた。

つまり、罰ベースのしつけを受けている犬たちは、「いいことが起きるかもしれない」という気持ちが、全体的に薄かった。

——叱るしつけは、犬の気分そのものを下げていた可能性があった。

しつけが入る、入らない、の話じゃなかった。 わんにょむが「ダメ」で動いてくれていたあの裏側で、たぶんこの子の気分は少しずつ低くなっていた。

ページを閉じて、寝ているわんにょむを見ました。

あの「ピクッと縮む瞬間」は、たぶん私の声に対する条件反射だっただけじゃない。 わんにょむの気分の中に、たぶん何かが沈殿していった結果だった。

「ダメ」を、なるべく使わないと決めた

その夜から、わんにょむへの声のかけ方を、もう一度見直しました。

ソファに登ろうとしたら、「ダメ」じゃなくて、別の場所(自分のクッション)を指差して「ここね」と声をかける。 リードを引っ張ろうとしたら、止まって、こっちに戻ってきたら「いい子」とおやつを渡す。 食卓の下から手を出してきたら、無視する。終わったら自分のところに戻って褒める。

「ダメ」と言う回数を、意識的に減らしました。

最初は、効きが遅いと感じました。 強く言ったほうが、即効性はある。 でも、わんにょむのピクッとする回数は、明らかに減っていきました。

3ヶ月くらい続けると、わんにょむの様子が少し変わりました。

帰宅したときのしっぽの振り方が大きくなった。 お腹を見せて寝転がる時間が増えた。 私の顔を、まっすぐ見てくる回数が増えた。

「気のせいかも」と思いますが、なんとなく、わんにょむの気分が前より明るい気がしているんです。

しつけが入る、入らないの話じゃなかった。 私が選ぶ言葉の温度が、毎日少しずつ、この子の気分を作っていたんです。

「効くしつけ」と「気分が沈むしつけ」は、別の話だった

カフェに来てくれる飼い主さんで、「うちの子、強く言わないと聞かないんですよ」と話す方がいます。

そういう方には、最近こうお伝えしています。 「叱るしつけは、犬の気分にまで影響するっていう研究があるみたいで……」

驚いた顔をする方が多いです。 「えっ、それは知らなかった」「やっぱりよくないんですね」と。

でも、すぐに(自分を責めなくていい)という気持ちも添えるようにしています。 私もずっと「ダメ」と言っていたから、その方たちを責めることなんて、できない。 ただ、知ってから、変えられることがあるよ、と。

しつけって、「正しさ」を競うものじゃなかった。 わんにょむの気分が上がるかどうか、それが本当の物差しだったんだ、と今は思っています。

明日もわんにょむに、できるだけ温かい声で話しかけたいと思います。 「ダメ」を使わずに、「いい子」を多く言える日が、たぶんこの子の今日の気分を作っているから。