「最近うちの子、階段の途中で立ち止まるんですよ」

カフェの常連さんがそう話してくれた朝、私は「そろそろシニアですもんね」と頷いていました。

ある総説を読んで、その「そろそろ」が、思っていたよりずっと身近だと知った日の話を書きます。


「年だから」で片付けてきた、犬たちの歩き方

カフェに来てくれる愛犬たちは、いろんな年齢層がいます。

子犬、若犬、成犬、シニア。 それぞれの歩き方を、なんとなく見ています。

ある日、12歳のラブラドルを連れた常連さんが、こんな話をしてくれました。

「最近、散歩中に立ち止まることが増えて。 階段の前でしばらく考え込むみたいに止まって、それからゆっくり上がるんですよ」

私は「そろそろシニアですもんね、足腰大変かも」と頷いていました。

その方は「うん、年だからね」と笑って、ラブラドルの背中を撫でていました。

私たちはどちらも、「年だから」という言葉で、その変化を片付けていたんです。

でも、家に帰ってから、なんとなく頭に残っていました。 「年だから」という言葉は、便利だけど、何かを諦めさせる言葉でもある。 本当は、もっと早くから何かサインがあって、もっと早くから何かできたんじゃないか。

うちのわんにょむは5歳。 今は元気に走り回るけど、いつかこの子も「年だから」と言われる日が来る。 そのとき、私はどんな気持ちでその言葉を受け取るんだろう。


SNSで見かけたシニア犬の動画が、ちょっと気になっていた

最近、SNSでこんな動画をよく見ます。

「うちの子、関節炎って診断されてから、サプリで元気になりました」 「最初は歩き方が変わっただけだと思ってたんですけど」 「もっと早く気づいてあげればよかった」

そういう言葉を見ながら、私の中に少しずつ問いが積もっていました。

関節炎って、どれくらいの犬がかかっているんだろう。 うちのわんにょむは5歳、まだ大丈夫だと思うけど、本当のところはどうなんだろう。 何歳から、何を見ていればいいんだろう。

そういう疑問を、ずっと持て余していました。

ある夜、わんにょむが寝てから、検索バーに「犬 関節炎 何歳 割合」と打ち込みました。


「米国の7,720万頭の犬のうち、4頭に1頭が関節炎」

たどり着いた総説には、衝撃的な数字が書かれていました。

米国の7,720万頭のペット犬のうち、4頭に1頭が何らかの形の関節炎と診断されている。 犬では関節リウマチより変形性関節症(osteoarthritis)の方が圧倒的に多い。 痛みが、犬の関節炎の1番目の徴候である。

4頭に1頭。 これは、私が想像していたより、ぐっと多い数字でした。

「シニアの病気」だと思っていた関節炎が、実は全年齢を含めた数字で4頭に1頭。 ということは、うちのわんにょむの周りで20頭の犬がいたら、5頭はすでに何らかの形で関節に問題を抱えている、ということ。

しかも、犬の関節炎の場合、「歩けない」「足を引きずる」みたいなはっきりした症状が出るよりずっと前に、痛みのサインが出ているそうです。

総説には、その早期サインが列挙されていました。

  • 階段を躊躇する
  • ジャンプの距離が短くなる
  • 散歩のスピードが落ちる
  • 立ち上がるのに時間がかかる
  • 寝姿勢を頻繁に変える
  • 撫でられたときに、特定の場所を嫌がる
  • 散歩の途中で立ち止まる時間が増える

階段を躊躇する」。 これは、あの常連さんが話していた、まさにそれでした。

「年だから」で片付けていた行動が、実は関節炎の初期サインだった可能性が高い。


わんにょむの歩き方を、もう一度ちゃんと見るようになった

その日から、わんにょむの歩き方や動きを、より意識して観察するようになりました。

散歩中、わんにょむがスピードを落とす場所。 家のソファに飛び乗る時のジャンプの仕方。 朝、起き上がる時の動きの滑らかさ。

異常がないか」じゃなくて、「いつもと違いがないか」を見る目を持つようになりました。

うちのわんにょむは、まだ目立つサインはありません。 でも、いつかその「いつもと違い」が現れたとき、私はもう「年だから」で片付けなくて済む。 すぐに獣医さんに相談しに行ける。

これは、私にとっては大きな変化でした。

年だから」は、ある意味では事実だけど、ある意味では何かを早期発見する機会を奪う言葉でもあった。 それを知ってから、わんにょむの毎日の動きが、ちょっと違う色で見えるようになりました。


後日、あの常連さんに、関節炎のサインを伝えた

数日後、あの12歳のラブラドルを連れた常連さんが、またカフェに来てくれました。

私は、ちょっと迷いながら、こうお伝えしました。

「先日のお話、ずっと考えていたんです。 階段の前で立ち止まる行動って、もしかしたら関節炎の初期サインの可能性もあるみたいで。 犬は痛みを口で言えないから、行動でサインを出してくれてるって書いてあって」

その方は、少し驚いた顔をして、「えっ、そうなの?」と。 「ぜんぶ『年だから』って思ってた」とつぶやいて、「獣医さんに相談してみる」と。

数週間後、その方から「やっぱり関節炎の初期だって。お薬とサプリで楽になってきたみたい」と教えてもらいました。 あの子の歩く速度が、ほんの少しだけ戻っている、と。

「年だから」を「もしかしたら治せる痛みかも」に変えられた日の喜びは、二人で確認した瞬間でした。


「気のせい」を「もしかして」に変えていく

カフェに来てくれる飼い主さんで、「うちの子、最近ちょっと動きが」と話す方には、最近こうお伝えしています。

「関節炎って4頭に1頭くらいで、結構多いみたいです。歩き方が変わるのが初期サインだったりするので、気になったら獣医さんに相談するといいかもです」

驚かれることが多いです。 「えっそんなに多いんですか」と。

私もずっと「シニアの一部の病気」だと思ってきたから、その表情がよくわかります。

うちのわんにょむは今日も走り回っています。 でも、いつかこの子の動きが変わる日が来たら、私は「年だから」で済ませない。 すぐに「もしかして、痛い?」と問いかけられる飼い主でいたい。

それが、4頭に1頭という数字を知ったあとの、私のいちばん大きな変化でした。

明日も、わんにょむの動きを、ちゃんと見ていようと思います。 小さなサインを、見逃さない自分でいるために。